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公開日: 2021.06.30  | 更新日: 2021.06.30

設備投資計画における採算性の計算方法(応用編)

設備投資の採算性を計算する実務上のテクニックと共に、採算計算の有名な3つの方法をまとめました。計算にはフリーキャッシュフローと割引率、そして現在価値の概念が必要です。それらの解説は基礎編でまとめているので気になる方はそちらを先にご確認ください。

設備投資計画における採算性の計算方法(基礎編)

事業会社で管理会計をしていると投資の採算性の計算業務があります。過去資料を元になんとなく数字はできているけれど根本的な基礎知識の理解ができていなかったり、それがゆえに応用が出来なかったりということがあり、必要な知識と応用についてまとめてみました。 ... 続きを読む

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設備投資の採算性を評価する方法は学術的にいろいろとありますが有名な3つの方法を説明いたします。結論としてはNPV法とIRR法を合わせて確認することをお勧めします。

回収期間法

投資額を回収し終える速さを検討できます。感覚で分かりやすく計算もしやすいけれど、お金の現在価値の概念を無視しているため会計としては不適切な情報です。ですが日本企業ではこの方法で算出する会社が多いようです。調べたところ、銀行が1枚かんでそうです…。過去銀行が企業に融資をする際には投資の効率性よりも回収期間を優先したこと、悪しき経路依存性で融資審査と企業実務上の際が生じても銀行に報告すべく回収期間法が必要だったこと等が原因のようです。囚人のジレンマみたいですね。対外向けの対応はともあれ、管理会計としてはそれにとらわれる必要はありません。ぜひ、昨今の常識になっているNPV法やIRR法による採算性を取り入れましょう。

NPV法

回収合計額の正味の現在価値を算出します。投資によってもたらされる将来的キャッシュフローをあらかじめ決定した割引率で現在価値を算出し、それが初期投資額を上回っているかで投資を判断することができます。更に絶対額も出てくるので他の投資案と比べることも可能となります。NPV=将来キャッシュフローの現在価値-投資金額とし、NPVが正か、またどれくらいの金額かで判断ができるようになります。 この二つの具体例をエクルで算出してみたので以下の例を参考にしてみてください。

採算性2

これを見て回収期間法では2.5年で回収できますとはわかりますが、年数だけであり投資の効率性は判りません。それに対しNPV法ならば5年間の運用で+366の成果を出すということがわかります。これは1例だけでしたが、複数の案を比較するときに全てを等しく現在価値に割り引いて評価するのでこっちのNPVの方が大きいからこの案が良い、という判断ができるようになります。

実務上のテクニック1

エクセルやスプレッドシートで投資の採算性を計算するときには関数のNPVを利用することになると思います。その時の数式はNPV(割引率,CF)+設備投資額となります。CFの箇所は累計CFではなく単年度のCFを選択しなければいけないので注意してください。また設備投資額はNPV関数の中に織り込まずに、ハンドで足し合わせるようにしてください。入れてしまうとそれすらも割引対象となってしまいます。

実務上のテクニック2

NPV関数と同時にXNPV関数というのもあります。これを活用するとより精度の高いNPVを算出することができます。そもそもNPV関数では1年後(365日後)に全額のキャッシュが発生するという計算になっています。ですが事業活動のイメージとしては1年間を通じで稼ぐ方がイメージと合うことも多いです。そういう時はXNPV関数を利用し、具体的に日付を設定すればそれにあったNPVを算出することができます。とはいえ細かく設定するのは枝葉末節になるので、「0.5」でちょうど期中平均にすることをお勧めします。結果としてそうする方が現在価値に割り引く日数が減るのでNPVを増額することができるというメリットもあります。NPVをもう少しだけ大きくしたら審議が通るのに…というちょっとしたテクニックにも利用できます。(初年度は垂直立ち上げが無理だからⅠ年後で見るが、2年後からは、1.5、2.5…とするとかだとより説得力があるかと。)

実務上のテクニック3

大きな投資になるほど設備投資額を算出するのに事前調査費が発生していたり、過去の調査資料を活用したりすることがあると思います。昔購入した機械だけど今は使ってないのでこれを活用した投資案も出てくるでしょう。それらにかかった費用は0年度以前(-1年度とか)で計算しないといけないのでしょうか?これを判断するには埋没費用(サンクコスト)という概念が必要です。将来の意思決定において過去に消費したコストはすでに実現してしまっており、それにとらわれた意思決定をしてはいけないという概念です。よって、過去発生した費用だけなら基本的に織り込むべきではありません。ただし売れば価値のある機械等の固定資産は新たな投資に回さなければキャッシュ価値を創造できたと言えますので、この分は織り込む必要があります。結論としては、売るなどして他にも価値があるものを使う場合は初期投資額に織り込むべきです。

IRR法(Internal Rate of Return)

投資によってもたらされる将来的キャッシュフローの現在価値が、初期投資額と等しくなるような割引率を算出するのがIRR法です。つまり、NPV=将来キャッシュフローの現在価値-投資金額の関係式からNPV=0⇔将来キャッシュフローの現在価値=投資金額となる場合の割引率を出すことになります。

これで何がわかるかというと、それで割り返された割引率(IRR)がWACCやハードル・レート、期待収益率を超えているかどうかが明らかになります。

会社のWACCが5%でIRRも5%なら会社が期待された通りの収益しか上げられなかったと判断されます。それに対し29%だったら預かったお金を+24%の価値を生み出したと判断されるわけです。これで回収期間法やNPV法では明らかにできなかった効率性を表現できるようになりました。

採算性3

実務上のテクニック4

IRRのみでの意思決定もよくありません。NPVとIRRを合わせて判断するようにしてください。なぜならIRRは率であり、NPVは絶対額だからです。効率を求めてIRRが高くとも、最後にものを言うのは稼ぐお金の量(NPV)です。例えIRRが低くともNPVが高かったらNPV大のプロジェクトを選択すべきです。(最終的には稼ぐ金額が重要になるから)

一つ例を挙げます。プランAとプランBは同じNPVですがプランAのIRRの方が高くなっています。つまり効率よくキャッシュを稼いでいることになります。確かにプランAの方が初年度から手堅くキャッシュを稼いでいますね。ではプランAとプランCと比べてみましょう。こちらは同じIRRなので効率性という意味では同じです。ですがNPVがプランCの方が明らかに高いです。これが角度の高い予想ならプランCが絶対おすすめです。

採算性4

ただ、実務としては毎年キャッシュを得ることに優先度が高いときもあります。なぜなら5年後までにキャッシュが持たないとか、そもそも5年後の予想精度の不確実性が出てくるためです。

実務上のテクニック5

設備投資の採算性を計算するときは、通常ケース、悲観ケースといくつかのプランを用意するのが通常です。(そしてだいたい悲観ケースでも大丈夫かが重要になります。)ですが1つのケースの中でも、設備投資額がいくら増額したら?とか、販売計画を修正して営業利益を増やしたいとか沢山の変更修正が出てくるものです。その都度シートを分けて作成していったらいつの間にか何十枚も出てきて分かりにくい…という事象が発生します。

そんな時にはエクセルのWhat-If分析のデータテーブルの利用がお勧めです。これにより2つの変数が変化したときの試算を自動でしてくれるようになります。

採算性5

IRR法の例を元に作成しました。割引率5%で設備投資500の時のIRRが29%でしたが、設備投資額が100増えてしまったときは20%まで下がる等が簡単に可視化できるのでお勧めです。今回の例では割引率と設備投資を選びましたが計算式に活用されている変数なら好きなものを選択できるので、プロジェクト毎の重要な変数を選んで活用してみてください。

実務上のテクニック6

NPV関数とXNPV関数のように、IRR関数にもMIRR関数というものが存在します。MはModify(修正)という意味でIRR関数では少し問題があるところを修正して算出してくれる関数です。

そもそもIRR関数では、1年目から最終年までの期間に稼いだキャッシュフローも同じ利率で運用するという前提で計算されます。29%のIRRの例を出しましたが、1年目に200のキャッシュを稼いだとしたら最終年度の5年目までの4年間の間も200を29%で運用し続ける、という前提になるわけですが、実際の所投資で期中に稼いだキャッシュは設備投資のために借りた借入金の返済等、別の目的で活用するので、そんな利回りで運用できるはずがないのが実情です。

その時はMIRR関数(範囲,安全利率,危険利率)の安全利率と危険利率をブランクにして算出してみてください。安全利率は途中でキャッシュフローがマイナスになったときの調達にかかる利率、危険利率は途中でキャッシュフローがプラスになったときの再投資の利率です。どうですか?IRR関数ではよい数字が出ていたのに、結構悪くなっていませんか?実はこれが蓋を開けてみたら全然投資が良くなかったという実態の真実かもしれません…。

実務上のテクニック7

ターミナルバリュー(Terminal Value)という言葉をご存じでしょうか?継続価値とも言います。事業成長が永遠に継続すると仮定した場合のキャッシュフロー合計の現在価値です。過去これを採算性計算に入れられないか、と相談されたことがありましたが丁重にお断りました。なぜなら、IRRは限られた期間の中での採算性を計算している(10年なら10年)わけで、その中でこの採算計算にはそれより先の将来の永続成長すらも織り込んだ仮定のキャッシュも織り込んでいます、なんて言われたら全く正当な評価ができないからです。ちなみにターミナルバリューの現在価値は初年度のキャッシュフロー÷(割引率―永久成長率)で算出することができます。

実務上のテクニック8

結構忘れられるのですが、最終年度の運転資本の増減は忘れずに戻してください。IRRでは限られた年度の中で稼ぐキャッシュフローの累計の現在価値ですが、期間で区切った最終年度の運転資本は回収(減少)して問題ありません。(より安全に見るなら最終年度の翌年)初年度で増加した運転資本を最終年に回収するという形です。これを入れると割引率で割り返されているものの少しはNPV,IRRの改善可能です。

以上が投資の採算性の計算における応用編でした。ぜひNPV法やIRR法を主軸に色々と挑戦してもらえたらと思います。ご一読ありがとうございました!

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この記事を書いた人
とら

あんも

大企業(製造業)の経理・財務で10年以上。工場・本社・海外と各拠点での業務経験で気づいたこと等をブログにしていきます。
経理・財務に興味がある人や同じ業種で働いている人のキャリアが少しでも豊かになる情報を、ブログを通して提供していきたいと思います。
趣味:
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