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公開日: 2021.06.15  | 更新日: 2021.07.19

設備投資計画における採算性の計算方法(基礎編)

事業会社で管理会計をしていると投資の採算性の計算業務があります。過去資料を元になんとなく数字はできているけれど根本的な基礎知識の理解ができていなかったり、それがゆえに応用が出来なかったりということがあり、必要な知識と応用についてまとめてみました。

まず投資の採算性を計算するには現在価値の知識が必要なので説明します。

1.現在価値とは

お金は手に入れるタイミングで価値が違います。1年後に手に入る100万円と今すぐ手に入る100万円。1年後に手に入る人が辛抱している間に、今すぐに手に入れることができた人はその1年間で買い物したり食事に行ったりと100万円の効果を受け取ることができるので、今すぐ手に入れたいとほとんどの人が思うでしょう。

では新たな選択肢が加わり1年後に手に入る金額は105万円の時はどうでしょう?人によっては1年後の105万円が良いかもしれません。では2年後に115万円の時はどうでしょう?様々な選択が出てきたときに、なんとなくこっちが良い、では意思決定をしているとは言えません。どれが一番お得なのか?を明らかにするために「現在価値」の概念が役に立ちます。異なる時期に発生する価値を比較するために、将来の価値を「現在価値」に評価して比べられるようになるからです。では次に将来価値について説明します。将来価値を現在価値で表現する方法は銀行で考えるのが一番わかりやすいです。

2.将来価値とは

昨今の超低金利の日本の銀行では金利は0.001%程度の所が多いです。これは100万円預けたら1年後+10円が手に入るということです。(本当は税金もかかりますが、今は例のため割愛します。)と脱線しましたが1年後に手に入るお金(将来価値)は現在価値に利率を掛けたもので、 将来価値=現在価値×(1+r)^n r:利率 n:年数 と表現することができます。ここで伝えたいことは、この数式を置き換えると、 現在価値=将来価値÷(1+r)^n と表現できる点です。つまり、将来価値、利率を元に現在価値を算出することができるということです。

例)手元の100万円を5%で運用したら・・・

将来価値(1年後) 100×1.05=105

将来価値(2年後) 105×1.05=110

将来価値(3年後) 110×1.05=116

将来価値(4年後) 116×1.05=122

将来価値(5年後) 122×1.05=128

現在の100万円は5年後の128万円と等価と表現できる。

では事業の採算性における将来価値、つまりフリーキャッシュフロー(FCF)について説明します。

3―1.フリーキャッシュフロー(FCF)とは

そもそも財務三表の一つであるキャッシュフロー計算書によって、キャッシュフローは「営業活動によるキャッシュフロー」、「投資活動によるキャッシュフロー」、「財務活動によるキャッシュフロー」の3種類に分類されます。そしてフリーキャッシュフローはフリーキャッシュフロー=営業活動キャッシュフロー+投資活動キャッシュフローと定義されることが一般的です。投資活動CFの正負表現次第で、営業活動-投資活動と表現するところもありますが、要はこの二つの影響を織り込んだものがフリーキャッシュフローとなります。

なぜフリーというかというと、そのキャッシュを自由(フリー)に使うことができるからです。ですが「誰が」フリーに使えるのでしょうか?企業でしょうか?それだったらそもそも全てのキャッシュが企業活動で(ある程度)フリーに使えていますよね?このフリーは債権者や株主にとってフリーであることと理解しておきましょう。営業、投資活動の結果残ったキャッシュを債権者は利息を要求しますし、株主は配当を要求します。それらをフリーキャッシュフローから支払うという形です。

ちなみにですが、受取利息・受取配当金は投資活動によるキャッシュフロー、それに対し支払利息・支払配当金は財務活動によるキャッシュフローとみなされます。これは発生原因から考えると、受取利息や受取配当金は投資の結果であり、逆に資金調達手段である借入金や株式にかかる費用は財務活動の結果だからです。そして上述の通り債権者や株主にとってフリーに使えるキャッシュフロー(営業CF+投資CF)から債権者や株主に還付する分を差し引くと考えるとわかりやすいですね。

とはいえ実務上は受取利息も支払利息も損益計算書の項目で表現していること、受取配当金も事業性質上やアライアンス強化による株の持ち合い等完全に投資目的ではない時もあること等から、受取利息・受取配当金・支払利息を営業活動によるキャッシュフローに、支払配当金は財務活動によるキャッシュフローに計上する運用も認められており、こちらの方が一般的です。学んだ理屈と実態が違うのでなぜ、と感じやすいので理由を押さえておけばわかりやすいと思います。

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3-2.フリーキャッシュフロー(FCF)の計算式

上場会社でキャッシュフロー計算書を開示している会社の場合はフリーキャッシュフローを算出可能ですが、非上場の時は開示されていないことが多いですし、自分の担当事業だけのフリーキャッシュフローを算出したい場合はこのままでは算出できません。そういう場合のためにもう一つの考え方(計算式)があります。

フリーキャッシュフロー(FCF)=営業利益-営業利益×法人税率+減価償却費-設備投資-運転資本の増減額

営業活動と投資活動によって得られるキャッシュをこの計算式で表現します。まずそもそも事業が黒字ならば税金が発生します。そして税金分は明らかにキャッシュが減るためにその分を減額する必要があります。次にこれは利益の報告であってキャッシュの動きではありません。キャッシュの動きをするために二つの調整が必要になります。

1つ目が減価償却と設備投資の関係です。設備投資は実際に投資をした時期にキャッシュを支払いますし、減価償却費は会計上耐用年数で期間按分されているだけで実際の支払をしているわけではありません。よって、減価償却費分は資金流出していないために加算しますし、設備投資分は流出するため減算が必要になります。

2つ目が運転資本の増減です。結論としては運転資本=売上債権+在庫-仕入債務になります。これは複雑なので難しいのですが、在庫をイメージしてもらえばわかりやすいかと思います。在庫が去年から今年で増えたとします。在庫は売れて初めてキャッシュを稼ぐわけで、売れずに在庫として残ったままだったらキャッシュを生みません。むしろ、キャッシュを消費して在庫を増やしてしまったわけです。よって、在庫が増えたということはキャッシュを消費してしまったわけで、必要な運転資本を維持するには消費したキャッシュ分運転資本を増額しないといけなくなるわけです。これが運転資本の増額がキャッシュフローの悪化させる仕組みです。同じ資産科目の売掛金も同様で、売掛金自体はキャッシュを生み出していないため、売掛金が増えるほど、運転資本は必要になる、買掛金は逆。こんなイメージです。

3-3.フリーキャッシュフロー(FCF)の他の計算式

調べて行くと以下の計算式も出てきたかと思います。

フリーキャッシュフロー(FCF)=NOPAT+減価償却費-設備投資-運転資本の増減額 NOPAT=EBIT-EBIT×法人税率 EBIT=税引前当期純利益+支払利息-受取利息

このように沢山の計算式があるからややこしさが増すのでしょうね…。ですがこれも基本を理解しておけば一緒です。営業活動と投資活動で稼ぐキャッシュを計算するうえで、NOPATの方がより実態に即す場合があるということです。3-2で営業利益で説明しましたが、ここではNOPATの表現になり、利息の影響を考慮していることになります。つまり利息影響を考慮する方がより正しい事業だという場合はNOPATを活用すれば良いことになります。

例えば事業として政策的に保有している有価証券(同業との持ち合いや仕入れ先との関係性強化等)による受取利息は事業と無関係とは言いにくいでしょう。逆にただ運用目的で保有している有価証券による受取利息は無関係といえるでしょう。このようにその会社次第で利息の意味合いが異なることから適する定義も異なり、様々な計算式が生まれています。が、結局のところ、その事業のフリーキャッシュフローを計算するうえで適切な利益を抽出出来たらそれでよいというわけです。

さて、こうして将来のフリーキャッシュフローを計算したらあともう少しです。次に考えなければいけないのは、r(利率)です。1年後、2年後のフリーキャッシュフローを現在価値に置き換えるにはrで割らなければいけませんが、どのように求めたらよいでしょうか?このrのことをファイナンスの世界では割引率と表現しますが、次は割引率について説明します。

4.割引率とは

割引率の設定は極めて重要です。なぜなら利率が高くなるほど、現在価値が小さくなるからです。例えば利率が1%の時は1年後の100万円は現在の99万円になるし(100万円÷1.01)、10%の時は1年後の100万円は現在の91万円(100万円÷1.1)で、利率が高い方が現在価値を低く見積もってしまうからです。かといって割引率を低く見積もり過ぎては逆に現在価値を高く評価してしまいます。このように同じ100万円と将来予想をしてもそれをいくらで割り引くかで現在価値が大きく変わってしまうことから、適切な割引率の設定が重要になります。

では適切な割引率とはどのように求めたらよいでしょうか?その時によく挙げられるものはWACC(通称ワック。Weighted Average Cost of Capitalの略。加重平均資本コストともいう。)です。日本語の加重平均資本コストがイメージとしてわかりやすいでしょうか。会社は銀行と株主という2通りの手段でお金を集めます。銀行に対して支払うコストを負債コストといい、株主に対して支払うコストを株主資本コストといいます。WACCとはこの負債コストと株主資本コストの加重平均のことです。

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例えばある会社の負債比率が30%で、株主資本比率が70%だとしましょう。そして負債コストが3%、株主資本コストが10%とします。この時のWACCは30%×3%+70%×10%=7.9%となるわけです。(本当は負債の節税効果があるのでもう少し下がりますがこの記事では割愛します。)この場合のこの会社は年間で7.9%以上の利益を挙げなければ銀行と株主の期待に応えられないとも言い換えることができるために、期待収益率や要求収益率ともいわれることもあります。

では会社は7.9%を満たせばOKでしょうか?これは最低限必要とされる利回りであり、経営者はそれに+αを加算することがほとんどです。例えば+1.1%として9%を自社のWACCとする、という風に表現することが多いのですが、こうなると上述したWACCと何が違うの?となってしまうので、経営者の意思を織り込んだこの割引率は学問上ハードル・レートと呼ばれています。ですが、皆さん会社固有の表現ってないでしょうか?会社次第で独自の呼び方があるので混乱しやすいのですが、経理部や財務部の人はぜひ違いを知っておいてください。

そして気を付けていただきたいのが、会社のWACCが事業のWACCではないということです。多角化で事業収益を複数で挙げている会社ほど注意が必要で、例えば製造業のように大規模な設備投資が必要な事業と、設備が不要なサービス業の事業を同じWACCで表現するのは乱暴すぎて正しい判断ができなくなります。その場合は自分自身の事業のWACCを社内の数字から算出するだけではなく、同業他社の情報からベンチマークする等、求めたい事業のWACCを多面的に算出することがより精度が高くなるのでお勧めです。

以上で基礎編の話を終わります。次は応用編で採算性を計算する3つの考え方と実務上のテクニックを説明していきたいと思います。

設備投資計画における採算性の計算方法(応用編)

設備投資の採算性を計算する実務上のテクニックと共に、採算計算の有名な3つの方法をまとめました。計算にはフリーキャッシュフローと割引率、そして現在価値の概念が必要です。それらの解説は基礎編でまとめているので気になる方はそちらを先にご確認ください。 ... 続きを読む

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この記事を書いた人
とら

あんも

大企業(製造業)の経理・財務で10年以上。工場・本社・海外と各拠点での業務経験で気づいたこと等をブログにしていきます。
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