roic10
公開日: 2023.04.14  | 更新日: 2023.04.15

ROICツリーで事業部の最適行動を見極めろ!

ROICツリーという言葉を聞いたことはありますか?ROIC(投下資本利益率)を計算するための要素を収益性運転効率等の要素の切り口で分解してまとめることで、ROICの改善方法を明らかにする手法のことです。

で、頑張ってROICやROICツリーを作ってみたものの、次はどうすれば?となったりしませんか?改善につながる具体的なアクションにつなげるのがROICツリーの本来の役割であり、ROICツリーを作って終わりではなく、ROICツリーを構成する主要項目の切り口や見方についてまとめてみました。なお、この記事は全社規模やコーポレート視点ではなく、事業部単位の担当者目線の内容です。

では本題ですが、先に結論を言ってしまうと、

  • 絶対額

  • 売上に対する比率

のポイントを押さえたらROICツリーの本質はOKです。ではまず、ROICの数式の復習から。

ROIC=税引後営業利益÷投下資本×100(%)

次は分子の税引後営業利益に注目してみます。

税引後営業利益=営業利益-法人税等

営業利益は本業で稼ぐ力を示す超重要な数字ですね。営業利益も以下の通り分解できます。

営業利益=売上-売上原価-販売費および一般管理費

実績でも予想でも構わないので、それぞれの数字を数年分用意してみて下さい。そして各年度を並べてみて絶対額の推移を調べてみて下さい。

特に成熟した事業においては売上は伸びてなくても費用がジワリと増えたりするもの。毎年ちょっとずつ増えてて気が付かなくても数年の比較で見たら大きく増えていたりしませんか?全体の傾向を見て違和感の数字を精査してみて下さい。

次に売上を除く他の数字をその期の売上で割ることで、売上高に占める売上原価・販売費および一般管理費・営業利益を出してみて下さい。

営業利益率=営業利益/売上高

売上原価率=売上原価/売上高

販売費比率=販売費および一般管理費/売上高

ですね。売上が激減したのに固定費ががっつり高くて悪化している、というようなわかりやすい例はともかく、売上で割り返した比率の推移の傾向を見ることでどこがネックになっているか気づきやすくなるかと思います。

数字のままでの分析でも良いですし、グラフ化してみるのもありです。イメージ図を参考として共有します。

roic6

法人税等を製造業で注視している人は少ないと思います。もちろん納税していますが、基本会社単位で実施しており、事業単位で考えることは少ないからです。ですが、税制優遇制度を活用し、税金を減らす努力をしている事業や会社は影響があるのでぜひ考慮してください。

他にも事業特性に合わせてより深堀してもよいと思います。例えば研究開発を重要視している事業においては研究費が占める割合を見るのもよいKPIになると思います。他にも人件費等や維持投資の修繕費や償却費等、それぞれの事業の重要なポイントを押さえ、その総額と、売上に対しどのような割合で存在しているかを意識してみればよい指標が出てくるかと思います。

次は分母の投下資本に注目します。

投下資本=固定資産+正味運転資本

この記事は実務者目線でまとめていますので、上記の定義で進めます。投下資本の定義は過去の記事で少しまとめていますので、必要に応じて以下の記事を参照ください。

事業単位ROICの求め方

何かとよく耳にするROIC(投下資本利益率)。ネットや本で調べると計算式や様々な情報があるのでなんとなくわかった気がするものの、じゃあ自分の事業部のROICを出すにはどうすれば・・・という疑問に答えられる実践的なまとめ記事がなかったのでまとめてみました。 ... 続きを読む

roic1

まず固定資産について。固定資産は取得価額から償却累計額を除いた簿価の推移を見てみて下さい。これも冒頭に述べた通り、絶対額の推移による分析になります。そして次はその年の売上を固定資産で割り返してみて下さい。PLでは売上「で」割りましたが、固定資産は売上「を」割ってください。(売上の分母と分子が逆という意味です。)すると固定資産回転率になります。

固定資産回転率=売上÷固定資産

固定資産の額は規模次第ですが、固定資産回転率だったら、業界平均等で比較することができ、事業や会社の立ち位置を知ることができるようになります。一概に~~以上の回転率が良い、とは言えないのでまずは業界平均、可能なら競合他社や目標とする会社のデータを抽出し、ベンチマークを作成してみるのが良いです。

固定資産関連のイメージ図は以下になります。

roic7

製造業では維持投資、設備の老朽化対策、安全対応…油断すれば固定資産が勝手に増えていくことが多いと思います。資金や余裕がある限り、どれも大切なので投資していくと思いますが、それに伴い売上が増えなければ事業としては、固定資産回転率が悪くなる投資でしかありません。

もちろん、売上に繋がらない必要な投資もしっかりと実施していく必要はありますが、湯水のようにお金や余裕があるわけではない場合は、目標とする固定資産回転率を設定し、それを割らないような投資額を設定し、その中で優先順位をつける等の基準があれば、納得感の高い意思決定ができるようになると思います。

そしてもし、単純更新や維持投資だけで回転率が大いに悪化する場合は…事業構造としてアラートが出ている状態なので、最終手段としては事業の撤収も含めた検討が必要になっていくと危機感を事業内で共有できるようになるはずです。

最後は正味運転資本について。

正味運転資本=流動資産-流動負債≒売掛金+棚卸資産-買掛金

実際の流動資産や流動負債には、現金・前払金等の流動資産もあれば、未払費用・前受金等の流動負債だって存在します。ですが事業部単位では、これらが運営上大きな影響を出さない場合は無視してよいと思います。多くの事業において最重要なのは、売掛金・棚卸資産・買掛金なので、上記のような数式になっております。

なお、これも考え方ですので、各事業において、現金取引も多く、売掛金だけでは足りない、という場合は主要な流動資産としてカウントしてもらってOKです。自分の事業における大きなドライバーをカウントしてください。

そしてこれらの指標も絶対額と売上で割り返したイメージ資料を用意しました。

roic8

売上債権回転期間=売掛金÷(売上÷365)

棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(売上÷365)

仕入債務回転期間=買掛金÷(売上÷365)

になります。売上÷365で、要は1日あたりの売上を出して、各BS科目(売掛金・棚卸資産・買掛金)が何日分あるかを計算した数字になります。

例えば上記イメージ資料の一番右(2025年)の数字は以下のようになっています。

売上債権回転期間=73日(約2カ月後に現金化できている)

棚卸資産回転期間=127.8日(約4か月後に在庫は販売されていく)

仕入債務回転期間=54.8日(約2か月後に支払いをしている)

これを順番に考えると、原料から製品を作り上げて売れるまでに127.8日かかり、売れた商品の現金には73日かかることがわかります。合計で127.8日+73日=200.8日かかることになります。つまり生産開始から200.8日後に現金が戻ってくると解釈できます。

それに対し、仕入に対する支払いは54.8日後でよいこともわかります。ただ、どうしても200.8日-54.8日=146日の間はお金がない期間になるわけです。

この146日相当、支払いをしてから現金を回収するまでの実質的な日数を、会計上、CCC(キャッシュコンバージョンサイクル)と呼びます。

一般的にCCCが短い方が事業として強みを持つことになります。

roic9

売掛金と買掛金は相手があることなので簡単な変更は厳しく、棚卸資産も商売上~~カ月分は保有しておきたい、と結局運転資本の項目はいじることはできないかもしれません。ただ、切り口を変えて、1日当たりの売上で割ることで、それぞれがどれだけの日数なのかを知ることで、現状がどのような状態なのか、また過去の自分と比べてどういう状態なのか、等がわかるので、事業の変化に気づきやすくなると思います。

最後の復習になりますが、ROICを構成する税引後営業利益と投下資本をさらに分解し、着目する点についていろいろと述べましたが、結局のところ、各項目の絶対額売上に対する比率に注目すれば、自ずと見えてきます。これがROICツリーの本質です。

ROICを出して終わり、ROICツリーを出して終わり、ではなく、次の最適と思わる行動の一助になれたら幸いです。ご一読、ありがとうございました!

最新の記事はこちら
広告
この記事を書いた人
とら

あんも

大企業(製造業)の経理・財務で10年以上。工場・本社・海外と各拠点での業務経験で気づいたこと等をブログにしていきます。
経理・財務に興味がある人や同じ業種で働いている人のキャリアが少しでも豊かになる情報を、ブログを通して提供していきたいと思います。
趣味:
旅行。投資。
資格:
  • 証券アナリスト
  • TOEIC 800点台
  • 簿記2級
広告