在庫が増えると利益が増える?製造業での実例解説。
在庫が増えると利益が増える。言葉としては知っていても、感覚としてなぜだかわからない?という若手経理や営業、企画等の他部署の人がいると聞き、なぜ在庫が増えると利益が増えるのかを実例を踏まえて解説します。
モノを作る。売って利益が出る。売らなかったら利益は出ない。 在庫を減らすほど売ったのだから、沢山売った分利益は出るじゃないか?
感覚的にしっくりこない人の理屈は上述の考え方だと思いますが、会計の世界ではこの考えは間違えです。それを簡単な実例を元に数字を使って解説していきたいと思います。 ある製品を作るのに変動費が@30円、固定費が1,000円かかるとし、売値は@100円で売れるとします。前月からの在庫はないとし、50個売れた場合を考えてみます。そして違いが分かるように、当月の生産量が50個(以下、A)と100個(以下、B)の時の損益計算書を比べてみましょう。
A.当月生産量が50個で、50個全てを売ったときの損益計算書
B.当月生産量が100個で、50個だけ売ったときの損益計算書
AとBで500円の差額が生まれていますね。原因は固定費ですが、損益計算書Bの固定費が1,000円ではない点を疑問に思う方がいらっしゃるかもしれません。そしてそこが今回の重要なポイントです。
この例での固定費1,000円は100個生産するのにかかった費用です。損益計算上は、固定費は生産量で負担しなければいけない会計のルール(全部原価計算:Total Costing, Full Costing, Absorption Costing等)があるために、Bの計算になります。このルールを知らない人からすると、1,000円かかったのだから固定費は1,000円でしょ?となり、利益は2,500円だと感じます。つまりAとBも同じだと考え、最初の通り、沢山売れば利益が出る、と感じてしまうわけです。 しかしこの会計ルール、全部原価計算による営業利益は生産や在庫を考慮しその期間における適切な損益を計算してくれるので同じ会計基準を採用している他社と比較するには向いているけれど、内部管理用としてはちょっと分かりにくいのも実情です。
そこで本当にうちは儲かっているのか?という点を社内では把握したくなります。そこで役に立つのがもう一つの会計ルール(直接原価計算:Direct Costing, Variable Costing等)による営業利益です。この直接原価計算では、在庫計算とかもういいから固定費は当期使った分全部計算に入れようよ!というシンプルな考え方です。
直接原価計算では固定費は全部織り込むわけですが、会計ルールの名前は「全部」ではなく直接原価計算というので注意です。固定費をDirectに計算するよ、と覚える方が分かりやすいです。ここでは直接原価計算による営業利益をDC利益と表現します。それに対して、全部原価計算による営業利益をTC利益と表現します。
そうなると、以下のような損益計算書になります。
いかがでしょうか?DC利益が多くの人の感覚の利益となり、TC利益が財務会計上の正しい利益となります。そしてDC利益の下の「固定費調整」の項目分が多くの人の感覚を狂わせる根源だと理解できたと思います。 なお、これは分かりやすくするための例という点は注意してください。固定費といっても、実際は固定製造費と固定販売費が存在します。製造の用に供する固定費は生産量で割り返さないといけないのに対し、固定販売費は生産量で割り返すことなく、100%当期の損に計上します。今までの例では分かりやすくするために固定費=固定製造費という内容でまとめていました。
適正在庫への対策
さて、よく言われる言葉ですが、製造業では適正在庫というものが重要です。その理由の1つが、在庫が増えてしまうと見かけ上の営業利益(TC利益)が良くなってしまい、正しい判断が出来なくなってしまうから、ということはご理解いただけたかと思います。
会計目線以外にも適正在庫ではないと様々なデメリットがあります。
製造(品質)目線では作って長く保管していると製品が駄目になってしまう可能性、営業目線では在庫にある間に製品が陳腐化して思った値段で売れなくなってしまう可能性があります。それに物流目線ではすぐに売れない在庫を置いておく保管料が高く発生してしまうことは避けられません。自社倉庫等場所がある場合はその限りではないですが、いつもと違う場所において運び出すのに通常以上の運賃が発生していく可能性もありえます。在庫を保管している間に大雨や台風で商品が駄目になってしまった、火事で燃えてしまった等の災害リスクも起こりえます。
これらのデメリットがあるにも関わらず、在庫が積みあがってしまう原因の1つは、作れば営業利益(TC利益)が良くなるのは事実なので、自分の任期の間は多めに作って利益出してやるぞ!在庫は関係子会社に買い取ってもらうぞ!というような良くない経営者のインセンティブ(エージェンシーコスト)が発生するからと言われています。
またちゃんと在庫を持ってても外部要因で急にモノが売れなくなり、結果在庫が積みあがってしまう時もあります。その時は手元資金を生産に回し、在庫に変えてしまっているので財務状況も急に悪くなってしまう環境になるので迅速な対応(在庫を販売し現金化)が必要になります。
ではどうすればよいかというと、主要な関係者と意見共有し原因を確かめることが重要になります。経営者や製造責任者、営業や物流、会計の責任者が集まり、意見を共有することが重要です。在庫に関する責任者は会社によると思いますが、各部の受け止め方次第では、製造は作るだけ、営業は売る だけ、物流は配送するだけ、経理は計算するだけで終わってしまってないでしょうか?在庫は各部にまたがる課題であり、責任部署だけでは解決できないこともあります。各部の協力を得られる体制を整え、その時の適正在庫から乖離する理由がどこにあるのか(製造か営業か物流か…等)を分析し、行動をとればおのずと解決していくはずです。
以上、在庫が増えると利益が増える理由と、適正在庫に関する記事でした。ご一読ありがとうございました。