事業多角化で経理にできることは?コングロマリット・ディスカウントとは?
事業の多角化!いい響きに聞こえますが本当にそうでしょうか?実はコングロマリット・ディスカウントという言葉もあります。コングロマリット・ディスカウントとは何か?なぜ起こるのか?実際にコングロマリット(多角化)した・している事業会社にいる経理の目線で語ります!
まずこの記事の結論としては、事業がコングロマリット(以下、多角化)する際は、経理としては以下の目線の注意をもって適宜経営者に意見具申しよう!です。実際の事業の多角化では何度も変わるバラ色の前提条件で損益予想をするだけ、都合の良い数字だけを切り取られるだけ、と振り回されることが多い経理ですが、経理の立場として多角化を考えていると経営者・事業側に伝えるだけでも、経理の役割は果たせているかと。ぜひ事業の多角化に経理から貢献してください!
なぜ企業は多角化を目指すのか?(企業目線)
企業はゴーイングコンサーン、継続していくことが前提で、今の事業を維持するか、拡大するか、それとも別の事業に手を出すかをそもそも求められています。会社は株主や銀行からお金を借りて、それを運用して毎年利益を挙げているわけで最低限配当分や金利分は稼がなければいけませんが、事業が軌道に乗り余剰資金が出来たら新たな事業に投資して更なる成長を目指すのは当たり前のことです。
ですが少し生臭いことを言うと人が関係することが多いと思っています。例えば…偉い人のポストが空いてない…よし、事業を分割して偉い人のポストを作ろう…など。他にも共同経営者の意見の対立から分割…など。必ず しもそれが理由ではないかもしれません。公式でそんなことを発表はしないので社外には分かりようがありません。ですが、組織を分けるにはそれを任せる人が必ず必要で、その人がどこから来たかを考えればどういう背景かを知れるかと。(順当な出世か、同格の配置換えか、天下りか…。)
どんな背景であっても、多角化に成功はしてもらわないといけません。経理として何ができるでしょうか…。多角化について調べていくと学問的な見地がわかりました。
なぜ企業は多角化を目指すのか?(学術目線)
多角化することでシナジー(相乗効果)があるから多角化をすると言えるそうです。その中でも以下のようなシナジーが挙げられるとのこと。
オペレーティングシナジー:事業間で資源を共有することで効率を高めること。例えば総務・人事・経理などバックオフィス部門はそのままで事業が増えたなら、事業当たりのバックオフィス部門の費用は減りますよね。ほかにも同じ技術を使った別事業や、既存のブランドを活用した新たな事業なども例になります。
財務シナジー:企業の生命線の資金調達を工夫することができます。冬しか稼働しない事業が夏にも稼働する事業を立ち上げれば、キャッシュフローの変動パターンを組み合わせることで、企業全体のキャッシュフローの変動を抑えることができるようになります。
多角化ディスカウントとは何か?
ともあれ企業は多角化をしていくことになりますが、多角化した企業は同じ産業で活動する他の専業企業と比べると、株式市場から低く評価されるようです。より成長しようとしたのに、低 く評価されてしまうのは驚きですよね。その根拠の根源は以下の研究からきているようです。
コングロマリット(多角化)・ディスカウントとも呼ばれ、これは90年代半ばに米国のコーポレートファイナンスの研究で確認された事象であり、当時の米国の多角化企業は過剰な投資や業績不振企業の買収などが原因で価値が低下したと分析している(Befger/Ofek[1995])。また多角化企業の方が従業員への報酬が、専業企業に比べて高いことが企業価値を低下したと検証した(Schoar[2001])。 となると、「日本」の多角化企業にも当てはまるのかどうかが気になりますよね。2004年~2012年の日本企業情報をもとに分析したところ、やはり日本企業も多角化企業は専業企業に比べ価値が低下(6~7%ほど)していることが分かったとのことです。詳しい内容に興味があればぜひ以下の学術記事を読んでみてください!
牛島辰男氏:多角化ディスカウントと企業ガバナンス(2015年3月)
なお米国での調査では20%近く低下していたようです。日本は7%に比べ大きいディスカウントですが、国や時代が違うので単純な比較はできないです。重要なのは国や時代が違えどこのディスカウントは発生していることで、それがなぜ起こるのでしょうか。
なぜ多角化ディスカウントは起こるのか?
実際に企業価値が低下しているのか、企業価値は低下しておらず企業評価だけ低下しているだけなのか?前者と後者では意味が全く異なりますが、過去の調査では実際に企業価値が低下しているようです。 米国の調査では過剰な設備投資や業績不振企業の買収、従業員への高い報酬が原因。日本の調査でも経営者の意思決定の負荷増大、組織構造やプロセスの複雑化などによるコスト過大化が原因と言われています。他にも不採算事業が優良事業のキャッシュフローを浪費してしまい、財務効率が悪化することも原因の一つのようです。
どうすれば多角化ディスカウントを減らせる?
どういう企業の多角化ディスカウントが低いのかがポイントです。傾向として、ガバナンス要因にて質が高い企業ほど企業価値が高い(多角化ディスカウントが低い)と結果が出ています。質の高いガバナンスが経営者の意思決定を改善し、非効率な多角化を抑制するためです。逆に考えて、経営者の意思決定や非効率な多角化を抑制できるようなガバナンスがあれば市場は企業を適正に評価ができるということです。
ガバナンスのある事業の多角化か?
少し学術的な話を続けましたが結局は経営者が効率的な多角化をしているかがポイントになります。でも多角化の方針に対し、これはちゃんと儲かるの?とか損益算出で経理はフォローできても、ガバナンスとか経営者がしっかりしているかなんて言う立場じゃないし…
ですがせっかくこういう研究や学術的事実があるのなら、それは情報共有するだけでも、多角化PJや経営者は意識を変えると思います。なぜなら経営者は社内の目だけではなく、社外からの目も重要だからです。ぜひ、今回の多角化ディスカウントという社外からの目線と、過去の数字が示した事実をもってより良い多角化を進めてください!