
インタレスト・カバレッジ・レシオ
金利ある世界になったことで、財務健全性という言葉が注目されるようになりました。財務制限条項(コベナンツ)の判定にも使われるインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)ですが、経理財務以外の方には馴染みの薄い指標だと思います。
ICRは銀行のための審査指標という意識が強いですが、今後は経営陣がモニタリングすべき「生存戦略のためのKPI」になるかもしれないと思い、情報をまとめました。
1.インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)=営業利益÷支払利息
借入金に対する利息をどれだけ余裕をもって支払えるかという、利息の支払い能力を測る財務指標
金融機関が企業の評価(お金を貸して問題ないか)の際に利用
内部利用というより、外部からの目線の基準
金利のある世界である欧米等では以前から重視される指標で、倍率が高いほど余裕をもって利息を支払える、という意味になります。
例えば営業利益100億円、支払利息20億円の会社であればICRは5倍です。1倍を割ると本業の儲けで利息を賄えていない状態です。
なお実務では、分母に社債利息や手形の割引料を含めた「支払利息」を使うのが一般的です。分子に受取利息・受取配当金を足す定義も見かけますが、ここでは割愛します。
実はニュースでたまに聞くゾンビ企業ともかかわりの強い指標です。
ゾンビ企業とは、本来は行き詰まっているけれど、援助(資金繰り支援)によって延命されている企業のことで、国際的な定義もあります。
国際決済銀行(BIS)は、ゾンビ企業を「設立10年超で、3年 以上にわたってICRが1未満の企業」と定義しています(これは広義の定義で、狭義ではこれに加えて将来の収益性が低いと市場に見なされていること(トービンのqが業種中央値未満)も条件になります)。
すなわち、10年以上事業を行っているにもかかわらず、本業の儲けで利息すら支払えない状態が恒常化している企業群はゾンビ扱いです。
ゾンビ(企業)が自分のことをどう思っているかは別として、ヒト(世間)からするとゾンビ(企業)は気持ちの良いものではないでしょう。無縁の日本企業が多いかもしれませんが、これから金利が高くなることでちょっとずつゾンビが増えてくるかもしれません。
ICRの計算式の通り、本業の稼ぎを示す営業利益を支払利息で割ることで算出されます。
経理財務の視点で見ると、P/L科目をP/L科目で割っているだけの指標です。会計上の利益に依存するため、企業目線では「実態把握には今ひとつでは?」と感じるところですが、金融機関等の外部からは、どの会社も同じ物差しで比較できる点で優秀な指標になります。
そして「会計上の利益に依存する」という課題に対しては、2つのアプローチがあります。
2. EBITDAインタレスト・カバレッジ・レシオ=EBITDA÷支払利息
米国企業やグローバルな格付け分析でよく使われる実務的な指標で、営業利益の代わりにEBITDAを利用します。設備投資が重く、減価償却費のせいで営業利益が構造的に小さく出てしまう企業を、適切に評価できるようになります。
製造業や通信、半導体等の巨額の設備投資を行う産業では特に有効です。減価償却費という現金支出を伴わない費用を戻すことで、本 業の現金創出力と利払い負担のバランスを見ることができます。減価償却の方法や耐用年数は国・企業によって差が出るところなので、そこを取り除ける分、グローバルでの横比較にも向いています。
ただしEBITDAは設備投資・運転資本・税金の支出を無視した数字です。償却費の分だけ機械的に利払い能力が良く見えるので、設備更新を続けないと事業が回らない業種では、EBITDA版だけを見て安心するのは危険です。
3. キャッシュフロー・インタレスト・カバレッジ・レシオ=営業CF÷支払利息
実際の現金の動きである「営業キャッシュ・フロー(営業CF)」を分子にするバージョンです。減価償却費などの非資金項目が足し戻され、さらに運転資本(売掛金・買掛金・棚卸資産)の増減が反映されるため、リアルな利払い能力を判断できます。
営業利益が高水準であっても、過剰在庫や売掛金の回収遅延によって営業キャッシュフローがマイナスに陥っている場合、実際の利息支払いは外部調達に依存することになります。
実際のキャッシュの裏付けがあるこの指標は、企業の短期的な流動性リスクも測れる点が特徴です。

4.ICRの弱点
ICRは、分子・分母ともに一定期間の成果を表すフロー(P/L・CF)の科目で計算する指標です。
そのため、ストック(貸借対照表)である有利子負債の残高がどれだけ重いのかは見えません。利息さえ払えていれば、元本がいくら積み上がっていても指標上は良好に見えてしまうため、企業の財務健全性を全体把握するには、これだけでは不十分という課題があります。
なお、これは営業CF版でも同じです。営業CF版で改善するのは「会計上の利益か、実際の現金か」という軸であって、「フローかストックか」という軸ではありません。
その点は別指標で判断する必要があります。Debt/EBITDA倍率で負債全体の重さ(何年分の稼ぎで返せるか)を測り、EBITDA版ICRで利払能力を測る、という組み合わせです。
Debt/EBITDA倍率は以下の記事を参考にしてください。
他にも、分母である支払利息に振り回されるという弱点があります。
ひとつは、指標の水準が金利環境そのもので動いてしまうことです。
低金利時代は分母が小さく、倍率は自然と高く出ていました。借換え(リファイナンス)が進めば同じ借入残高でも利払いは年々膨らむため、営業利益が横ばいでもICRは下がっていきます。前期比で悪化したときに、本業が悪いのか金利が上がっただけなのかを切り分ける必要があります。
もうひとつは、うらやましい限りではありますが、そもそも利払いが僅少な会社ではICRが数百倍になり、指標として機能しないことです。
そして当たり前ですが、ICRが示せるのは過去の実績のみです。有利子負債の変動金利比率が高ければ、この先の利払いは金利上昇の影響をダイレクトに受けますが、ICRという指標の数字だけを見ていても、その予兆は掴めません。
固定・変動の構成や借換え時期とあわせて、今後数年で利払いがどこまで増えうるかを社内で試算しておくと、早めに手を打てます。
5.まとめ(企業側から見たICR)
金利高の時代、企業側もこれらの観点でのモニタリングが必要になってくると思います。
5-1.ベンチマークに注意
業界平均や同業他社比をもとに自社の立ち位置を測ると思いますが、事業が多角化している時代に「同業」の括りが自社の実態に合っているとは限らず、銀行から見れば別の比較対象かもしれません。
また、同業他社も同じように金利高の影響を受けています。横並びで一緒に悪化しているとき、「うちも大丈夫」と判断してよいかは要注意です。
いっそのこと、財務に相談し、銀行側にどれくらいのICRが適しているかと確認してもらうのも手かと思います。
5-2.EBITDA版や営業CF版の活用
もしかしたらコベナンツで、ICRが黄色信号な状態になるかもしれません 。その際は、EBITDA版や営業CF版もあわせて示すことで、健全性を説明することができます。銀行側が把握できない事業の中身を知っているのは企業側なので、なぜ営業利益版だと低く出るのかを説明できる点が強みになります。
ただ、悪化してから都合の良い指標を持ち出しても後付けの言い訳に聞こえてしまうので、平時から営業利益版・EBITDA版・営業CF版の3つをモニタリングしておくことが、将来に向けた布石になると思います。
5-3.社内向け財務規律
企業が成長するためには先立つもの(資金)が必要ですが、ICRは社内にその規律を生んでくれます。冒頭にも挙げた財務制限条項とは、資金調達時に銀行側が出す条件のことで、そこにICRが選ばれることが多いためです。そして条件に抵触すると、期限の利益を喪失して一括返済を求められる可能性がある、といった具合に非常に面倒なことになります。
つまりICRは、社外との約束であると同時に、どこまで借りてよいのかという社内の線引きにもなります。その意味で、資本構成の最適化に寄与する財務規律だと言えます。
ご一読、ありがとうございました。

