政策保有株の仕訳をまとめて解説
企業が他社企業の株式を政策的に所有する場合の総称である政策保有株は、通常は会計上のその他有価証券に分類されます。そういった政策保有株に関する会計処理に特化して具体的に記事をまとめてみました。新人担当者や会計処理に関心を持つ皆さんに役立つ情報になりますと幸いです。
なお、以下の解説は日本会計基準における処理となりますが、IFRSとの違いも最後にまとめておりますのでそういった観点でも確認されたい方はご一読ください。
そもそも政策保有株とは
取得時
決算時(期末) 全部純資産直入法と部分純資産直入法
期首時 洗替法と切放法
売却時 全部純資産直入法+洗替法のとき
まとめ
1.そもそも政策保有株とは
以前まとめた記事がありますので、こちらをご参考下さい。
ではさっそく会計処理に注目してみます。
2.取得時
その他有価証券を現金100で取得したときの仕訳は以下の通りになります。
借方:その他有価証券(BS:資産) 100
貸方:現金(BS:資産) 100
これは現金という資産を、政策保有株という資産に置き換えただけの仕訳になります。
次にその他有価証券は決算時に時価評価をすることにな りますが、この評価方法にも2種類の手法が存在します。
3.決算時(期末) 全部純資産直入法
全部純資産直入法とは、損益に関わらず全てを純資産に計上する方法です。
取得原価100の株式が、期末で150だった場合、
借方:その他有価証券(BS:資産) 50
貸方:その他有価証券評価差額金(BS:純資産)50
取得原価100の株式が、期末で80だった場合は逆で
借方:その他有価証券評価差額金(BS:純資産)20
貸方:その他有価証券(BS:資産) 20
となりシンプルです。原則はこの全部純資産直入法を適用することになります。
3’.決算時(期末) 部分純資産直入法
これは損(時価が取得原価を下回った)時にのみ、評価差額金を当期の損失として処理する方法です。
取得原価100の株式が、期末で150だった場合、
借方:その他有価証券(BS:資産) 50
貸方:その他有価証券評価差額金(BS:純資産)50
と、これは同じですが、取得原価100の株式が、期末で80だった場合は
借方:投資有価証券評価損(PL:特別損失)20
貸方:その他有価証券(BS:資産) 20
とPLに振り替えることが可能となります。
4.期首 洗替法
翌期首に価値を戻す(洗い替え)方法です。上記2の例でいうならば、
借方:その他有価証券評価差額金(BS:純資産)50
貸方:その他有価証券(BS:資産) 50
の仕訳を発生させることになります。損の時も同様で
借方:その他有価証券(BS:資産) 20
貸方:その他有価証券評価差額金(BS:純資産)20
4’.期首時 切放法
その他有価証券においては洗替法のみの適用です。概念だけお伝えすると上記3の処理をせず、2もしくは2‘の処理で完了とする方式になります。
処理を減らせて便利に思えますが、複数年と続けるとプラス・マイナスがデコボコすることになり、状況がわからないため、売買目的有価証券等、勝ち負けをスポットで出すような金融商品に対して適用が可能となります。
5.売却時 全部純資産直入法+洗替法のとき
決算処理次第で売却時の処理も変わってきますが、実務的に一番メジャーな全部純資産直入法かつ洗替法の時の処理についてまとめます。
上記100だった株が、180で売却できたとします。その時の仕訳は
借方:現金(BS:資産) 180
貸方:その他有価証券(BS:資産) 100
有価証券売却益(PL:特別利益) 80
他には減損などの検討も ありますが、一般的にはこれで処理は終了です。
6.まとめ
最後にまとめとして、全部純資産直入法+洗替法の時の仕訳のポイントを述べておきます。
前提:100で手に入れた政策保有株が決算では150の価値があり、売却時には180の価値があったとする
取得時
借方:その他有価証券(BS:資産) 100
貸方:現金(BS:資産) 100
決算時
借方:その他有価証券(BS:資産) 50
貸方:その他有価証券評価差額金(BS:純資産)50
期首時
借方:その他有価証券評価差額金(BS:純資産)50
貸方:その他有価証券(BS:資産) 50
売却時
借方:現金(BS:資産) 180
貸方:その他有価証券(BS:資産) 100
有価証券売却益(PL:特別利益) 80
ポイント1:政策保有株は売却されたときにはじめてPLに計上される。
これは日本会計基準の処理となりますが、売却時に初めて当期の損益計算書に計上されるため、大量の政策保有株を売却したときは影響が大きいです。一昔前は利益の調整弁として今年は悪いから、多めに売って利益を稼ごう、、、と考える経営層がいたかもしれませんが、こういうことがあるから、政策保有株の売却が推奨されているわけですね。
ポイント2:会計基準がIFRSに変わったら永遠にPLに計上されない。
IFRSといった言葉は聞いたことはあるかと思います。世界でメジャーとなる会計基準ですが、こちらの会計基準の企業では上記仕訳になりません。IFRSではリサイクリングの禁止という概念があります。
上記仕訳を見ていただいたらわかるように、決算時に評価差額をその他有価証券評価差額金というBS・純資産の科目に計上します。その他有価証券評価差額金はその他包括利益という枠で囲われ、連結財務諸表で報告される利益になります。
日本基準では、まだ実現していない利益をPLには入れず、BSの純資産のその他包括利益で把握しておく、そして実際に売却したときに利益が実現したから、差額をPLで計上しよう、という考えになります。
IFRSでは、すでにその他包括利益で報告した利益を、科目を読み替えてPLに再び計上(リサイクリング)するなんて利益の付け替えであり意味がない、むしろ正しい会計判断を損なわせる、という考えからリサイクリングを禁止しています。(為替換算調整勘定は認める等科目ごとで異なります。)
このように会計基準によってイメージの変わる処理となりますので、ご自身や対象の会社の状態に合わせて確認が必要な少々ややこしい項目なのでご注意ください。