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公開日: 2023.09.30  | 更新日: 2023.09.30

政策保有株のなぜ?をまとめて解説

昨今話題に上がる政策保有株について、会社から色々と言われるようになったと問い合わせがあったので、その背景を多角的にまとめてみました。

  1. 政策保有株とは?

  2. 誰が縮減・削減を求めている?

  3. 縮減・削減の背景は?

  4. まとめ

1.政策保有株とは?

まず政策保有株(Cross-shareholdings)とは、企業が事業活動をする上で取引先との関係性を構築・維持するために保有する株式のことを意味します。日本の会計基準上は「その他有価証券」と呼ばれる分類になります。

そもそも会計上の有価証券は保有目的に合わせて4分類に分かれます。分けることで決算において、有価証券を帳簿に(それなりに)正しく反映することができるようになります。

(1)売買目的有価証券

時価の変動で利益を得ることを目的にしており、売買で商いをする金融機関が保有する有価証券が該当します。決算では時価で評価し、取得時点との差異は損益計算書にそのまま反映されます。

(2)満期保有目的の債券

満期まで保有する目的の有価証券のことで、国債や社債が該当します。額面と取得額の差や利率(クーポン)が定まっていることから、満期までの影響金額が計算できるので、当期に影響する分の利息や額面と取得額の差を計算する償却原価によって評価され、各年の損益計算書に反映されます。

(3)子会社株式及び関連会社株式

名前の通りの子会社および関連会社の株式であり、これは取得原価で評価します。取得時の価値のままなので評価差額の概念はありません。

(4)その他有価証券

上記(1)~(3)以外の全てその他有価証券に分類されます。決算では時価で評価し、取得時との差異は純資産(BS)のその他包括利益累計額のその他有価証券評価差額金で計上されます。

上記の会計上のルールにより、政策保有株は(4)その他有価証券として扱われ、株価の影響は純資産の部で認識されることになります。

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2.誰が縮減・削減を求めている?

政策保有株の削減・縮減を求めている人、それは企業のステークホルダーの一言に尽きます。

(1)日本政府や東証が縮減を求めている

金融庁と東京証券取引所(東証)にて策定されているコーポレートガバナンスコード(CGコード)にて上場している企業がガイドラインとして参照すべき原則・指針が示されています。5つの基本原則の1つ目である株主の権利・平等性の確保があり、その中で原則1-4.政策保有株式の項目があります。

【原則1-4.政策保有株式】

上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

・補充原則 1-4① 上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。

・補充原則 1-4② 上場会社は、政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない。

2015年6月にリリースされた初版のCGコードから原則1-4にて政策保有株式について言及されていましたが、2018年6月の改定にてより踏み込んだ今の形に変わりました。保有する意義や基準を策定・開示することが明記され、補足原則が追加され、先方から株を売りたいといわれたとしても、その売却等を妨げるべきではないという踏み込んだ内容になっています。

(2)議決権行使会社が縮減を求めている

次に議決権行使助言会社(proxy firm, proxy advisor)とは、機関投資家が保有している銘柄の株主総会における議決権の行使に関し、様々な助言を行う会社です。米国のISS(Institutional Shareholder Services)やグラスルイス(Glass Lewis)の2社が有名で議決権助言業界をほぼ寡占している状態です。

誰かに業務を受託されているわけではなく、責任の所在がどこかにあるわけではありません。つまり株主価値を向上すべく最適行動するインセンティブもありません。もちろん企業からみても直接的なステークホルダーでは全くありません。にもかかわらずその影響力は大きくなっており、彼らの方針を企業側はないがしろにはできない状態になっています。投資信託協会のアンケート調査結果では日本企業の半数以上が助言会社を利用しています。

政策保有株に対する具体的な基準は以下の通りです。

政策保有株の保有額が純資産の20%以上の場合、経営トップである取締役に対して反対を推奨する基準を2022年2月より導入。(ISS日本向け議決権行使助言基準より)

保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の貸借対照表計上額の合計額が、連結純資産と比較して10%以上の場合、取締役会議長に反対助言を行う。ただし、明確な削減計画の開示があれば反対を控える例外もある。(グラスルイスのポリシーガイダンスより)

ISSの無作為抽出による調査によると7%の会社が反対助言を提案される結果となり、日経の記事にてグラスルイスの基準でも金融機関を除くと11%が対象とのことです。(2023年6月21日の日経記事「政策保有株、トップ選任左右 「20%以上で反対」広がる」より)

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3.縮減・削減の背景は?

国や東証、議決権行使助言会社が明文化までして削減を訴える背景はなぜでしょうか?単に言うならお金の使い方が違うからです。預けたお金が目的外の利用をされたら、預けた側はもちろん怒りますよね?株主は企業に対し、本業で活動してもらうためにお金を投資しています。それを事業と関わりが説明できない会社の株を保有するお金に使われたら困るから訴えているわけです。

これは資本効率性の悪化とも繋がっています。本来、事業で収益を生むための源泉を異なるところに使ってしまっているわけです。これは企業価値の最大化を目指さなければいけない企業の明らかかつ分かりやすい失点として映るために、国・東証・議決権行使助言会社は声を大きくしているわけです。

会計的なアプローチの話になりますが、会社が子会社を保有しているとき、連結で決算書類を作ります。その際に連結消去で投資と資本の相殺や、取引、債権債務、未実現利益の相殺等をすることで、見かけ上過大となった決算書類を正しい状態に戻す必要があります。が、政策保有株においてはこのような消去はされません。つまり個社としては正しいかもしれませんが、それを大きく、例えば日本という国で見るならば、取り消すべき取引にも関わらずなんか数字が良く見えている、という状態を起こしていると言えます。

もちろん、政策保有株にも様々なメリットはあります。1つはその株を保有することで安定的に原材料を購入できる・自社製品が売れるといったメリットです。ただしこれに関してはCGコードの原則1-7.関連当事者間の取引に注意が必要です。

【原則1-7.関連当事者間の取引】

上場会社がその役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合には、そうした取引が会社や株主共同の利益を害することのないよう、また、そうした懸念を惹起することのないよう、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに、その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべきである。

政策保有株を所有することで円滑な取引ができていたとしても、もっと安くて品質の良い原料が存在したら、それに変更すべきだし、もっと高くで購入してくれるお客様がいたらそちらに売却することも検討すべきです。が、昔からの付き合いで、今でも利益は出ているし、と安定操業に走っていないでしょうか…?

また、保有される側は敵対的買収の可能性から守られやすい点もメリットです。自社に肯定的な会社が保有してくれればその企業は外圧からは身を守りやすくなります。また議決権の行使においても賛同をもらえるために、経営者も安定操業することが可能になります。が、極端な話、買収された結果、より良いサービスを提供できるようになる、産業の新陳代謝が促される、こういった好ましい変化があるなら買収された方が消費者・ユーザーとしては良いかもしれません。

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4.まとめ

株主は会社経営を経営者に依頼します。代理人となった経営者は、依頼人の株主の利益を優先した行動をとるべきだが、意向に沿った業務を実行しない経営者を首にしたいわけです。よって株主は経営者の成績を判断したいわけですが、手腕を評価する1つの手法が政策保有株の有無になっているわけです。

政策保有株は分かりやすい指標で、なぜそんなに持っているのか、もっと本業にお金を使え、と話は繋がるわけです。こうして、所有していることを株主に説明できなかった場合、非効率な経営を行って不要なコスト(エージェンシーコスト)を発生させていた、と判断され経営者は退任させられることになります。そうならないために会社は必至に減らそうとしているわけですね。

なお、政策保有株という概念は世界にはあまりなく、日本の独自性でもあります。他国では、それは買収であったり、資本提携であったり、政府の所有であったりして、意図が明確であることがほとんどです。お互いに株を持ち合い、二人三脚で頑張ることも必要な時がありますが、その手の取り方も効率よく実施してください、という時代になっているわけです。

ご一読、ありがとうございました!

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この記事を書いた人
とら

あんも

大企業(製造業)の経理・財務で10年以上。工場・本社・海外と各拠点での業務経験で気づいたこと等をブログにしていきます。
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